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殺菌された乳酸菌が持つ力とは

殺菌された乳酸菌とは

殺菌すると乳酸菌は死滅する

乳酸菌飲料のラベルを見ると「乳製品乳酸菌飲料(殺菌)」と表示されています。ほかにも乳酸菌入りを謳ったチョコレートなどのお菓子のパッケージを見ると、原材料表示に「乳酸菌(殺菌)」などと表示されています。
これはどういう意味なのでしょうか? 乳酸菌は死んでいるのでしょうか? 結論から言えば殺菌しているわけですから乳酸菌は死滅しています。殺菌と表示された乳酸菌飲料や加工食品、サプリメントなどに含まれる乳酸菌は製造段階で加熱殺菌処理しています。

乳酸菌を殺菌する理由

乳酸菌が殺菌されていることを知ると、乳酸菌が生きていることを期待していた方はがっかりするでしょう。ではなぜ製造段階で乳酸菌を殺菌してしまうのでしょうか? その理由は主に以下の三つです。

おいしさと味わいを保つため

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一つめは一定のおいしさと味わいを保つためです。生きた乳酸菌は、発酵乳などの食品が出来上がり、容器に充填されて密封されてからも活動しています。
乳酸菌とは、ブドウ糖や乳糖などの糖類を代謝することで、乳酸や酢酸などの有機酸を生成する微生物のことです。
乳酸菌が代謝を行うと食品のpHが下がり、酸性に近づきます。製造段階で発酵を促すためには有効で、雑菌の繁殖を防ぐことができます。
しかし、容器に充填して店頭に陳列してからも発酵が進んでしまうと、酸味が増すことで味が変わってしまい、おいしさと味わいを一定に保つことができなくなってしまいます いわゆる過発酵ですが、消費者の多くは強い酸味を好まない傾向があるため、万人受けする味わいに仕上げるためには発酵を抑える必要があります。
もちろん多くの乳酸菌は10℃以下の低温で保存することで発酵を抑えることができます。しかし、冷蔵保存しない加工食品の場合はそれができないため、製造段階で加熱殺菌しています。

品質を保つため

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二つめは品質を保つためです。乳酸菌は発酵することで自ら増殖していきますが、過発酵になると食品の中に酸が増えすぎてしまい、やがて自らが作った酸で死滅してしまいます。
また、乳酸菌飲料など冷蔵保存できる食品であっても、ゆっくりと発酵が進むため、2~3日程度であれば問題ありませんが、長期間保存すると少しずつ菌が減少していきます。

容器の問題もあります。乳酸菌が発酵すると有機酸のほかに炭酸ガスが発生するため、容器が膨張してしまい破損してしまう恐れがあります。
例えば味噌と醤油は麹菌、乳酸菌、酵母菌によって発酵していますが、私たちが一般に口にする味噌や醤油の大半は製造段階で火入れをすることで乳酸菌を死滅させています。これは主に容器の膨張を防ぐ目的があります。

大量の菌を配合するため

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乳酸菌は製造段階で加熱殺菌することで、菌を高密度に圧縮して大量の乳酸菌を配合することが可能になります。例えばエンテロコッカス・フェカリス菌を独自の技術で加熱殺菌処理したEC-12株には、20mgに1000億個もの菌が含まれています。
この技術は主にサプリメントに活用されていて、死菌を採用したサプリメントでは多いもので1回分で1兆~2兆個もの乳酸菌を配合しています。
わずか数gのサプリメントでこれだけ大量の乳酸菌を摂ることができるのは、殺菌された乳酸菌がもたらす大きな恩恵と言えるでしょう。

殺菌した乳酸菌が持つ健康効果

殺菌していても健康効果が期待できる

殺菌した乳酸菌にも効果があることが分かっている

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巷では「生きた乳酸菌は健康に良い」と盛んに言われています。ヨーグルトなどの製造メーカーでも「生きた乳酸菌が腸に届く」「生きた乳酸菌が腸内環境を整える」と宣伝しています。
確かに間違ってはいませんが、では殺菌された乳酸菌には何の効果もないのでしょうか? もちろんそんなことはありません。
日本では生きた乳酸菌が良いという考え方が定着しているにも関わらず、あえて乳酸菌を殺菌するのは、死滅した乳酸菌=死菌にも効果が認められているからです。

ヨーグルト不老長寿説のイリヤ・メチニコフが行った研究

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歴史を振り返ってみると「ヨーグルト不老長寿説」で知られるロシアの微生物学者イリヤ・メチニコフは、殺菌した乳酸菌であっても生きた乳酸菌と同じ健康効果が期待できると考えていました。
メチニコフは、マウスに生きた乳酸菌を投与したグループと、加熱殺菌した乳酸菌を投与したグループを比較する実験を行い、どちらも十分な効果が期待できることを確認しています。
この実験についてメチニコフは「どちらも同じように生育したが、加熱殺菌した乳酸菌を投与したマウスのほうが良い結果が得られた」と述べています。
つまりこれは生きた乳酸菌がもたらした効果ではなく、乳酸菌の菌体成分や代謝物によって腸内環境が整えられたことを意味しています。

また意外なことに、メチニコフはブルガリアの長寿者が摂っていたヨーグルトは生乳ではなく、煮沸した牛乳からヨーグルトを作っていることを指摘しています。
これは当時は冷蔵庫などが普及していなかったため、絞りたての牛乳を常温で保存することで雑菌が繁殖する恐れがあったためです。衛生面を考えれば煮沸した牛乳を使うのは当然のことだったのです。
もちろん煮沸していますから乳酸菌は死滅しています。ですが牛乳の中に乳酸菌の菌体成分が残りますから十分に健康効果が得られたのです。

腸内細菌研究の第一人者が行った研究

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このメチニコフの研究が正しいことを証明したのが、日本で腸内細菌研究の第一人者である東京大学の光岡知足名誉教授です。

かねてから乳酸菌は菌の生き死に関わらず効果が期待できると考えていた光岡氏は、1964年に殺菌したヨーグルトをマウスに投与して寿命にどのような影響があるのか調べる実験を行いました。
実験では90匹のマウスを三つのグループに分けて、一つめのグループには普通の飼料を投与し、二つめのグループには牛乳を14%添加した飼料を投与しました。そして三つめのグループには殺菌発酵乳を14%添加した飼料を投与しました。
そして離乳期からマウスが寿命を迎えるまで調べました。その結果、普通の飼料と牛乳を投与したマウスの平均寿命は84.9週、84.4週であったのに対して、殺菌発酵乳を投与したマウスの平均寿命は91.8週まで伸びました。つまり8%長生きしたことになります。これは人間で言えば平均寿命は約85歳のため、約7年分に相当します。
さらに殺菌した乳酸菌を含む発酵乳を摂ったマウスの腸内フローラを調べると、他の二つのグループの約10倍もビフィズス菌の数が多いことが分かりました。
なお、殺菌発酵乳とは乳酸菌を7日間以上培養してから殺菌したものです。通常よりも長い7日間培養させることで過発酵になり菌の一部は死滅しますが、死菌を含めると普通の発酵乳よりも多くの菌が含まれているのが特徴です。

腸内フローラが改善する効果

近年では殺菌した乳酸菌の研究が進み、死滅した乳酸菌であっても生菌と同じように腸内の善玉菌を活性化して増殖を促し、腸内フローラを改善する効果があることが分かっています。

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日本獣医生命科学大学の寺田厚名誉教授は、殺菌した乳酸菌であるEC-12株に腸内環境を改善する効果があることを発表しました。
健康な20代男性8名を対象に行った試験では、EC-12株を2週間摂ってもらい、摂取前と摂取7日目、14日目に便を採取して腸内フローラを解析しました。
その結果、摂取期間中は摂取前と比べて善玉菌であるビフィズス菌が増加し、悪玉菌であるウェルシュ菌が減少していることが確認されました。
さらに摂取期間期間は酢酸、乳酸、プロビオン酸といった短鎖脂肪酸が増加することが確認されました。
短鎖脂肪酸とは腸内を弱酸性に保つ性質を持つ酸のことで、悪玉菌の増殖を抑えられたことで腸内環境が改善されたことを示しています。
また、悪玉菌が食べ物を腐敗して作る有害物質であるインドールやフェノールが減少していることも確認されました。
これは腸内で食べ物を動かしながら排出に導くぜん動運動が促されて、大腸に腐敗物質が蓄積されるのを防いでいることを示しています。
この研究結果について寺田氏は「殺菌した乳酸菌の摂取によって腸内細菌叢のバランスを保ち、腸内環境をより良好にすることがわかった」と言います。

免疫細胞を刺激する働き

乳酸菌が免疫細胞を刺激する仕組み

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私たちの体は、ウイルスや細菌などの病原体から身を守る免疫システムを備えていますが、免疫細胞の約7割は腸に集中しています。
腸が持つ免疫システムを腸管免疫と言いますが、その中で総司令部のような場所が小腸の粘膜にあるパイエル板で、免疫細胞であるリンパ球によって構成されています。
パイエル板は食事や呼吸によって流入した物質を、食べ物など無害なものであるか、ウイルスや細菌など体に害を及ぼす可能性のある異物であるか検査する役目を担っています。
小腸に届いた乳酸菌の一部はパイエル板に取り込まれることで、その下で待機する樹状細胞に捕獲されるほか、体内をパトロールしているマクロファージに食べられます。
すると乳酸菌の情報がヘルパーT細胞やB細胞などの他の免疫細胞に伝達されて、免疫物質であるIgA抗体やサイトカインが作られます。
つまり、乳酸菌がパイエル板を通過することで、免疫細胞が刺激されて、出動する頻度が増えることで、免疫力を高めることができる仕組みです。

殺菌した乳酸菌のほうがパイエル板を通過しやすい

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この効果は生きた乳酸菌でも殺菌された乳酸菌でも変わりません。ただし、生きた乳酸菌には菌同士が凝集する性質があるため、その塊が大きくなるとパイエル板の穴を通過することができなくなってしまいます。
せっかく生きた乳酸菌を摂ってもパイエル板を通過することができないと、免疫細胞が刺激されないため免疫力の向上は期待できません。
乳酸菌は殺菌することでパイエル板を通過しやすいなるため、免疫力を高めるためには生きた乳酸菌よりも適していると言えます。

また摂取する菌の数も重要です。小腸に送り込む乳酸菌の数が多いほどにパイエル板を通過できる乳酸菌の数が多くなるからです。
殺菌した乳酸菌は生きた乳酸菌よりも大量に摂取することができるため、この点でも大きなメリットがあります。

バイオジェニックスのすすめ

乳酸菌など生きた善玉菌を体に取り入れることで健康に繋げようという考え方をプロバイオティクスと呼びます。
これに対して体に直接作用することで、免疫力の向上や整腸作用など健康に良い効果をもたらす食品成分をバイオジェニックスと呼びます。
加熱殺菌した乳酸菌を代表に、抗酸化作用を持つビタミンやDHA、EPAなどがバイオジェニックスとされています。

長年に渡って乳酸菌などの腸内細菌を研究している光岡氏が提唱する考え方であり、これまでは生きた乳酸菌にのみ注目が集まっていましたが、近年になりやっと脚光を浴びつつあります。
その特徴はプロバイオティクスとは違って、腸内フローラを介することなく免疫細胞などに直接働きかけることができる点であり、それによって体全体の機能を高める効果が期待されています。
もちろん体に直接作用することで、腸内フローラにも良い影響があります。殺菌された乳酸菌を摂ってお腹の調子が良くなるのは、免疫細胞が刺激されたことによる間接的な効果と言えるでしょう。

一部のメーカーでは「生きた乳酸菌でないと意味がない」と宣伝していますが、これは間違いであることが、近年の研究から分かっています。
乳酸菌は菌の生き死にに関わらず健康効果があり、免疫賦活作用など殺菌された乳酸菌のほうが適している効果も認められています。
健康な体を作るために乳酸菌を摂るのですから、菌が生きていることに必ずしもこだわる必要はありません。
もちろん生きた乳酸菌を否定するべきではありせんが、殺菌された乳酸菌を積極的に活用することで腸内環境の改善や免疫力の向上に繋げましょう。

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