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発酵乳に使われる乳酸菌の特徴

発酵乳とは

発酵乳は動物の乳を発酵させた食品

ヨーグルトのパッケージを見ると種類別名称のところに「はっ酵乳」と書かれています。はっ酵乳(以下、発酵乳)とは何なのでしょうか。
発酵乳は、その名前の通り牛乳などの動物の乳を乳酸菌や酵母で発酵させた食品のことで、日本ではヨーグルトまたは飲むヨーグルトのことを指します。
しかし、世界ではヨーグルト以外にもさまざまなタイプの発酵乳が作られています。使われる原料も、日本ではほぼ全てが牛乳から作られているのに対して、アジアや中近東、東ヨーロッパの国々ではヤギ、羊、水牛、馬、ラクダの乳が使われています。
例えば馬の乳から作るモンゴルの馬乳酒、牛のほかヤギや羊の乳からも作られるロシアのケフィア、水牛の乳から作られるインドやネパールのダヒなどがあります。

法律上の定義

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日本で発酵乳は「乳および乳製品の成分規格等に関する省令」という法律で明確に定義されています。
その中で「乳またはこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を乳酸菌または酵母で発酵させ、糊状または液状にしたもの、またはこれらを凍結したもの」とあります。
無脂肪乳固形分とは牛乳などのパッケージ表示でも見かけるものですが、牛乳の水分と脂肪分以外の成分のことを指します。
この無脂肪乳固形分は、たんぱく質やカルシウム、ビタミンといった体を維持するうえで必要な栄養素や乳糖などを含みます。ですからこれが多いほど栄養価が高いことを意味しています。
さらに法律では、以下のような具体的な成分の基準も定められています。

無脂乳固形分 8.0%以上
1mlあたりの乳酸菌数または酵母数 1000万以上
大腸菌群 陰性

発酵乳の歴史は7000年以上

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発酵乳の歴史は古く、西アジアで牧畜が広まった紀元前5000年には発酵乳が作られていたと言われています。日本ではその歴史が浅く、ヨーグルトの生産が本格的に始まったのは1950年であり、一般家庭に普及したのは昭和の中頃に入ってからです。
そんな発酵乳ですが栄養価が高いだけでなく優れた整腸作用が期待できることから、近年では健康食品として多くの人たちに受け入れられています。

発酵乳に使われる乳酸菌

発酵乳用の乳酸菌を種菌として添加して作られる

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日本において、発酵乳に使われる乳酸菌の種類は特に決められていません。乳酸菌はこれまでに350種類以上見つかっていますが、法律上はどの種類の菌を使っても構わないのです。
とはいえ、全ての乳酸菌が発酵乳作りに適しているわけではありません。乳酸菌はそれぞれ性質が異なるため、使う菌と組み合わせによって酸味や風味に違いが生じます。
ところで乳酸菌で発酵させると聞くと、原料の牛乳に含まれる乳酸菌をそのまま増殖させることをイメージしがちです。
昔ながらのそういう方法もありますが、発酵に時間かかり品質が安定しないため、工場で製造される発酵乳は、製造段階でスターターと呼ばれる種菌を添加することで発酵させています。

発酵乳に使われる乳酸菌の種類

主に以下の種類の乳酸菌が発酵乳の製造に使われています。なおビフィドバクテリウム属とはビフィズス菌のことです。

ラクトバチルス属 ブルガリア
ヘルベティカス
カゼイ
ガセリ
アシドフィルス
プランタルム
ブレビス
ラクトコッカス属 ラクチス・亜種ラクチス
ラクチス・亜種クレモリス
ストレプトコッカス属 サーモフィラス
エンテロコッカス属 フェシウム
ロイコノストック属 メセンテロイデス・亜種クレモリス
ビフィドバクテリウム属 ビフィダム
ロンガム
ブレーベ
インファンティス
アドレッセンティス

発酵乳用の乳酸菌の組み合わせ

定番はブルガリア菌とサーモフィラス菌の組み合わせ

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発酵乳には、ラクトバチルス属やラクトコッカス属の動物性乳酸菌を中心に、さまざまな種類の乳酸菌が使われています。その中でも種菌として最もポピュラーなのが、ブルガリア菌とサーモフィラス菌の組み合わせです。
国際規格では、この二つの菌を使った発酵乳をヨーグルトと定義しているほど発酵乳作りに欠かせない乳酸菌です。メーカーやブランドによっては、さらにカゼイ菌やガセリ菌、ビフィズス菌などを添加しています。
現在、日本で製造されているヨーグルトのほとんどは、この二つの菌を組み合わせて種菌として添加しています。
なぜブルガリア菌とサーモフィラス菌が一緒に使われるのかというと、この二つの菌は相性が良く、単独で使うよりも短時間で菌が増殖するためです。
それに加えてヨーグルトに適度な硬さと風味をもたらします。そのため古くからヨーグルト作りの種菌として使われてきました。

ブルガリア菌とサーモフィラス菌を使わないヨーグルトもある

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コーカサス地方で食べられているカスピ海ヨーグルトは、家森幸男博士がジョージアから菌を持ち帰ったことがきっかけで、日本でも一躍人気のヨーグルトとなりました。
このカスピ海ヨーグルトは、クレモリス菌単独で発酵させているのが特徴で、ブルガリア菌とサーモフィラス菌を使わずに発酵させる数少ないヨーグルトです。

ブルガリア菌とサーモフィラス菌はどのように働くのか

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発酵乳の製造方法は大きく分けて「前発酵」タイプと「後発酵」タイプがあります。
まず、原料を混合してから加熱して殺菌し、そこにブルガリア菌とサーモフィラス菌、ヨーグルトによってはその他の乳酸菌を種菌として添加します。
その後、前発酵タイプではタンクの中で発酵させますが、後発酵タイプは種菌を添加してすぐに容器に充填し、容器の中で発酵させます。

では、発酵乳の中でブルガリア菌とサーモフィラス菌はどのように働くのでしょうか? まずサーモフィラス菌が活発に働いて、原料に含まれるたんぱく質を酵素で分解してアミノ酸やペプチドを作り出し、発酵のエネルギーとして増殖していきます。
同時にブルガリア菌の増殖に必要なギ酸を作り出します。
次にブルガリア菌がギ酸をエネルギーにして増殖し、たんぱく質を分解してアミノ酸やペプチドを作り、サーモフィラス菌の増殖を促します。
このようにお互いの弱点を補う関係にあるため、この二つの菌を組み合わせることで早く発酵させることができます。また、サーモフィラス菌はヨーグルトに適度な硬さをもたらして舌触りを良くし、ブルガリア菌はさわやかな風味をもたらします。
ビフィズス菌など優れた健康効果が期待できる菌はたくさんありますが、種菌としてこの二つを加えるのは、他の菌だけでは発酵に時間がかかり、風味の点でも劣るためです。

多くの発酵乳は動物性乳酸菌で発酵させている

ブルガリア菌もサーモフィラス菌も動物性乳酸菌

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乳酸菌は、大きく分けて動物由来の動物性乳酸菌と植物由来の植物性乳酸菌がありますが、発酵乳に使われる乳酸菌のほとんどは動物性乳酸菌です。
ブルガリア菌は、ジュネーブ大学の医学部生であったスタメン・グリゴロフによって、ブルガリアで伝統的に食べられていたヨーグルトの中から発見されました。
サーモフィラス菌は、低温殺菌牛乳の中から発見されました。ですからこの二つの菌はどちらも牛乳由来の動物性乳酸菌です。

動物性乳酸菌の大半は酸に弱い性質を持ち、胃酸や胆汁酸でその多くが死滅してしまうため、生きて腸まで届く数は多くありません。
ブルガリア菌もサーモフィラス菌も酸に弱い乳酸菌です。さらにブルガリア菌は生きて腸に届いたとしてもヒトの腸内に住むことができません。
このように発酵乳の種菌として使われる二つの菌には大きな欠点があります。それにも関わらず発酵乳に使われる理由は、味と風味を良くし、扱いやすいという利点があるからです。

植物性乳酸菌で発酵させることもできる

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一方の植物性乳酸菌は、栄養に乏しく酸や塩分がある環境で生き抜いてきたため、強い生命力を備えています。酸に強い性質を持ち、動物性乳酸菌と比べて胃酸や胆汁酸に強く、生きて腸まで届き長く活動することができます。
例えば、京都の伝統的な漬物であるすぐき漬けから発見されたラブレ菌は、植物性乳酸菌の中でもトップクラスの生残率を誇り、生きて腸に届いて長く活動します。

工場で作られる発酵乳は人工的に種菌を添加していますから、植物性乳酸菌で発酵させることもできます。植物性乳酸菌は、ブドウ糖やショ糖をエネルギーに乳酸や酢酸などの有機酸を生成しますが、牛乳に含まれる乳糖でも同じ働きをするからです。
また、近年では植物性乳酸菌の優れた健康効果が注目されています。それにも関わらず、2018年の時点で植物性乳酸菌を使った発酵乳を市場で見かけることは少なく、開発も進んでいないのが現状です。

植物性乳酸菌を使った発酵乳が少ない理由

動物性乳酸菌とは発酵する温度が異なるため

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ではなぜ植物性乳酸菌を使った発酵乳は少ないのでしょうか? その理由の一つは発酵する温度の違いです。動物性乳酸菌は35~40℃で最も活発に活動する性質があり、一般的には30~45℃で発酵させています。
それに対して植物性乳酸菌は常温でも発酵するため、動物性乳酸菌と植物性乳酸菌を組み合わせると、発酵のコントロールが難しくなります。

植物性乳酸菌の生成する酢酸は味作りを難しくする

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もちろん植物性乳酸菌だけで発酵させる方法もあります。しかし、植物性乳酸菌は乳酸だけでなく酢酸も生成するため、味作りが難しいという欠点があります。
乳酸発酵には、乳酸のみを作り出すホモ型発酵と、乳酸以外にエタノール、酢酸、二酸化炭素を作り出すヘテロ型発酵があります。
発酵乳によく使われるブルガリア菌、サーモフィラス菌、ガセリ菌、ヘルベティカス菌はホモ型発酵する乳酸菌です。乳酸はまろやかな酸味を与えるため、万人受けする味に仕上げることができます。
なお、ホモ型発酵であっても実際には乳酸以外に、微量ながらエタノール、酢酸、ギ酸などを生成します。サーモフィラス菌が生成するギ酸はブルガリア菌の増殖に大きく貢献しています。
ところが、ラブレ菌など植物性乳酸菌の多くは、ヘテロ型発酵の中でも酢酸をたくさん生成するのが特徴です。酢酸は刺激があるため、味作りを大変複雑にしてしまいます。

品質管理が難しいため

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品質管理の難しさも大きなネックになっています。常温でも発酵する植物性乳酸菌は工場から出荷した後も発酵を止めることができません。10℃以下でもゆっくりと発酵が進むため、冷蔵庫で保管しても時間が経つと発酵が進んで酸味が増してしまいます。
そのため、お店に陳列されている短期間で味が変わってしまう恐れがあり、品質管理を難しくしているのです。また、発酵すると炭酸ガスが作られるため容器にも工夫が必要です。
このような理由から発酵乳の多くは動物性乳酸菌が使われ、植物性乳酸菌を使った発酵乳はあまり普及していないのです。

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