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乳酸菌を摂るにはまず和食

日本は発酵食品大国

和食に不可欠な発酵食品

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2013年12月、日本の伝統的な食文化である和食はユネスコの文化遺産に登録されました。和食に欠かすことができないのが、出汁と味噌や醤油といった日本独特の調味料です。
全国各地で作られている個性的な漬物も和食ならではです。これらは全て微生物によって発酵させています。日本は世界有数の発酵大国であり、発酵食品なしでは和食は成り立ちません。

このように日本で発酵食品が発達した理由は、周囲を海に囲まれていて魚と塩が手に入りやすかったからであり、魚を塩で漬け込んだ魚醤が日本で最初に作られた発酵食品と考えられています。

それが平安時代になると麹を使った醤油作りへと発展します。平安時代の中期に制定された法令集「延喜式」には京都に醤油屋があったという記述があります。
一方、漬物は729~749年の天平年間の木簡に「瓜の塩漬け」が登場し、これが文献上の最古の記録です。「延喜式」には酢漬けや粕漬けといったさまざまな漬物が掲載されています。

和食の発酵食品には様々な菌が関わる

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和食の調味料として欠かせない味噌と醤油は麹菌、乳酸菌、酵母菌によって作られます。米や麦から作られる穀物酢も日本に数多く存在しますが、酢酸菌で発酵します。
料理に使われることもある日本酒は酵母菌と乳酸菌で発酵させています。納豆は稲の藁に生息している納豆菌によって発酵します。昆布とともに和食の出汁に欠かせないかつお節は麹菌で発酵させています。

日本人の健康を支えてきた和食

このような伝統的な発酵食品は和食を形作っただけでなく日本人の健康を支えてきました。乳酸菌、麹菌、酵母菌、酢酸菌、納豆菌といった善玉菌は、体にとって有益であり健康維持に欠かせません。

その中でも優れた整腸効果を持つのが植物性乳酸菌です。
味噌や醤油、乳酸発酵させた漬物類に含まれる植物性乳酸菌は栄養が乏しく過酷な環境で生き抜いてきたため、強い生命力を備えています。

ヨーグルトやチーズといった乳製品から摂ることができる動物性乳酸菌は酸に弱い性質を持ち、その多くは胃酸や胆汁酸で死滅してしまいます。
一方、植物性乳酸菌は酸に強い性質を持つため、胃酸や胆汁酸で死滅することなく生きて腸まで届けることができます。近年の研究では死滅した菌にも一定の整腸作用があることが分かっていますが、生きた菌は乳酸や酢酸といった有機酸を大量に生成するためより高い効果が期待できます。

乳酸菌が発見される遥か昔から、私たち日本人は和食から植物性乳酸菌を摂っていたのです。それによって腸内環境が整えられ健康を維持することができました。

醤油作りに欠かせない乳酸菌

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醤油の起源は中国や東南アジアと言われていますが、日本では約2000年前の弥生時代から大和時代にかけて伝来した「比之保(ヒシオ)」が平安時代に発展して醤油になりました。

醤油作りには微生物が重要な役割を担っています。そして面白いことに麹菌から乳酸菌そして酵母菌へと、微生物の発酵リレーが行われているのが特徴です。

醤油づくりで行われる微生物の発酵リレー

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まず蒸した大豆と炒った小麦に種麹をつけて3日ほど繁殖させます。これを「麹づくり」と言って、いかに麹菌を上手に繁殖させるかが出来上がりを左右します。
麹菌が繁殖すると酵素が作られて、大豆に含まれるたんぱく質はアミノ酸に、小麦に含まれるでんぷんはブドウ糖に分解されます。

そしていよいよ乳酸菌の出番です。糖を代謝して乳酸や酢酸などの有機酸を作り出す乳酸菌はブドウ糖をエサにして増殖します。諸味のpHを下げることで雑菌の繁殖を防いでくれます。
乳酸菌によって諸味が酸性に変わると酵母菌の出番です。酵母菌によってブドウ糖からアルコールが作られると、乳酸菌が作った有機酸との化学反応で複雑な香りが生まれます。

乳酸菌は醤油の味作りに重要

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乳酸菌は醤油の味作りにも関与します。爽やかな酸味や味の伸びや深みは乳酸菌が与えてくれます。乳酸菌の働きが弱いと薄っぺらい味になると言われるほど、乳酸菌は味作りにおいて重要な働きをします。

味噌にも乳酸菌が含まれている

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味噌は醤油よりも歴史があり、701年に発令された「大宝令」に「未醤」が登場するのが文献上最古の記録です。この未醤が転じて味噌になったとされています。

味噌作りの発酵過程

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味噌作りにおいても麹菌、酵母菌、乳酸菌といった微生物が重要な働きをしています。

麹菌は酵素を作り出し、たんぱく質はアミノ酸やペプチドに、でんぷんはブドウ糖に分解します。
酵素によって作られたアミノ酸やペプチドは旨みとなります。次に乳酸菌がブドウ糖から有機酸を生成して原料のpHを下げて雑菌の繁殖を防ぎます。
そして醤油と同じように酵母菌にバトンを渡します。乳酸菌は味噌の味に押しと酸味を加えて、大豆特有の臭みをやわらげてくれます。

乳酸菌が豊富なのは豆味噌

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味噌は原料によって豆味噌、米味噌、麦味噌などがあります。このうち豆味噌は米や麦の麹を一切使わずに、大豆に麹菌を直接生やしてから塩を加えて漬け込むのが特徴です。そのため醸造期間が長く乳酸菌が豊富に含まれています。

漬物は乳酸菌の宝庫

京都から全国に広まった漬物

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日本の発酵文化の中でも特徴的な食品が漬物です。その起源は先述した通り奈良時代で、平安時代に発展して大まかな形が作られました。
当時の食文化の発信地は都が置かれた京都であり漬物も京都から日本中に広まりました。全国各地には個性的な漬物をたくさん見ることができ、どれもその土地の食材と食文化を反映しています。

秋田 いぶり漬け
山形 雪菜ふすべ漬け
栃木 たまり漬け
東京 べったら漬け
神奈川 大山菜漬け
静岡 ワサビ漬け
長野 野沢菜漬け、すんき漬け
京都 千枚漬け、柴漬け、すぐき漬け
広島 広島菜漬け
山口 寒漬け
福岡 高菜漬け
鹿児島 山川漬け

一部には発酵させずに酢や味噌などに漬け込んだだけの漬物もありますが、多くは発酵させています。漬物を発酵させる善玉菌は植物性乳酸菌と酵母菌です。
その中でも植物性乳酸菌は常温でも増殖するため、一晩置くだけでも乳酸発酵するのが特徴です。そのため野菜を漬け込んだ多くの漬物は植物性乳酸菌によって発酵させています。

乳酸発酵させた主な漬物

京都から全国各地に広まった漬物、その中でも乳酸発酵させて作られる代表的な漬物を詳しく紹介します。

すぐき漬け

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京都府内では古くから京野菜と呼ばれる他の地域とは異なる特徴を持つ野菜が伝統的に栽培されてきました。加茂茄子や聖護院大根といった京野菜は多くの人に知られています。
京都では京野菜を使った汁物や煮物といった惣菜を「おばんざい」と呼びますが、たっぷりと栄養を含んだ京野菜は京料理に欠かせない食材です。
京都でこれほど野菜作りが発展した理由としては、海から遠い内陸部であったこと、肥沃な京都盆地という地理的な要因が挙げられます。

・すぐき漬けとは
「すぐき漬け」はそんな京野菜の一つであるすぐき菜を漬け込んで作ります。冬にすぐき菜を収穫し、塩水に一晩下漬けしてから1週間ほど本漬けします。
さらに室の中で8日ほど発酵させると葉と茎が飴色に近い色合いに変わり、かぶらは黄色味を帯びた乳白色に変わります。すぐき漬けはすっきりした酸味を持つのが特徴で、三大京漬物の一つに数えられています。
すぐきの旬は真冬で、すぐき漬けは漬けあがりが最もおいしく、古くなると乳酸発酵が進むため酸味が強くなります。

・免疫力を高めるラブレ菌が含まれる
このすぐき漬けからルイ・パストゥール医学研究センターの岸田綱太郎博士が1993年に発見したのがラブレ菌です。植物性乳酸菌の中でも特に優れた生残率を誇るラブレ菌は、生きて腸に届いて長く活動します。
さらにインターフェロン-αと呼ばれる抗ウイルス作用を持つ物質の産生を促すことが分かっています。このインターフェロン-αは、体内を常にパトロールしてウイルスに感染した細胞を殺菌し、腫瘍細胞を融解して除去するNK(ナチュラルキラー)細胞を活性化する働きがあります。

ぬか漬け

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乳酸発酵させた漬物の中でも最も普及しているのが全国各地で作られている「ぬか漬け」です。昔は各家庭にぬか床があり、余った野菜を漬け込んでいたものです。

・米ぬかには乳酸菌が生息している
米ぬかには乳酸菌が生息していて、野菜の表面についた乳酸菌とともに冷暗所に置くことで乳酸発酵します。また浸透圧によって野菜の水分が抜けると米ぬかの栄養素が代わりに入り込んで旨みに変わります。
大根やかぶ、きゅうりや茄子など様々な野菜を漬け込みますが、その中でも大根を漬け込んだ「沢庵」は日本人にとって最も馴染みのある漬物の一つでしょう。

・乳酸菌が豊富なぬか漬け
このぬか漬けはまさに乳酸菌の宝庫です。京都の漬物店が4~5日漬け込んだきゅうりやかぼちゃなど5種類の漬物を「京都微生物研究所」に持ち込んで検査したもらったところ、ぬか床には1gあたり2500万個、漬物には1gあたり120万個の乳酸菌が含まれていることが分かりました。

かなり刺激的なぬか漬けもあります。石川県では青酸カリの1千倍もの毒性を持つと言われるテトロドトキシンを含むフグの卵巣のぬか漬けが郷土料理として食べられています。
塩で漬け込んで1年、さらにぬか味噌漬けにして4年経つと、猛毒のフグの卵巣から不思議なことに毒が全て消えるのだとか。発酵学が専門である東京農業大学の小泉武夫名誉教授によると「ぬか味噌の中には1gに2億匹も乳酸菌がいる」のだとか。
乳酸菌は卵巣の表面の穴から入り増殖してテトロドトキシンを取り込み、二酸化炭素と水とアンモニアに分解するとされています。

すんき漬け

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長野県の木曽地方で作られている「すんき漬け」は世界でも珍しい塩を全く使わない漬物です。すんきとは赤カブの葉茎で、熱湯にサッとくぐらせてから前年に漬け込んだすんきを種として少し加えて桶で漬け込みます。
内陸部で山に囲まれた木曽地方は海から遠く、昔は「米は貸しても塩は貸せるな」という言葉があるほど塩が貴重品でした。そのため野菜を保存したくても塩を大量に使うことができず、塩を使わないすんき漬けが考案されたと言われています。

・乳酸発酵のコントロールが重要
漬物は乳酸発酵だけでもpHを下げることで雑菌の繁殖を抑えることができます。しかし、乳酸菌に全て依存することで発酵が進みすぎて酸味が強くなるか、発酵が足りずに雑菌が繁殖して腐ってしまう恐れがあります。
そのため多くの漬物は塩を加えることで保存性を高めるとともに発酵が進みすぎないようにしています。塩を使わないすぐき漬けは乳酸発酵をいかに上手にコントロールするかが秘訣です。

・すんき漬けに含まれている乳酸菌の種類
すんき漬けの発酵にはラクトバチルス属の乳酸菌が20種類以上関与していることが明らかになっています。その中でもキソネンシス、オータキエンシス、ラピ、スンキイは、既存の菌種に当てはまらないすんき漬けにのみ見られる乳酸菌であり、優れた免疫賦活作用が注目されています。

なれずしの発酵に欠かせない乳酸菌

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和食と言えば寿司を忘れてはいけません。とはいえ私たちが普段食べている普通の寿司は乳酸発酵させていません。江戸時代に酢が庶民の間に流通すると酢飯を使った寿司が作られるようになり、「早ずし」と呼ばれました。この早ずしが普及して今日では主流になっています。
しかし、それまでは「なれずし」と呼ばれる乳酸発酵させた寿司が日本中で食べられていました。

なれずしとは

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なれずしは中国や東南アジアから日本に伝わったとされています。延喜式には西日本各地に「調」としてなれずしがいくつも掲載されています。漬け込む素材としてはアユやフナ、アワビといった魚介類が中心でしたが、イノシシやシカの肉を漬け込んでいたという記述もあります。

塩蔵した魚介類を米飯と一緒に何ヶ月も漬け込むと、飯が糖化して乳酸発酵して独特の酸味が生まれて保存性が高まります。この間に魚などに含まれる動物性たんぱく質が分解されて旨みに変わることで濃厚な味わいに仕上がります。
なお、飯は漬け床であるため食用にはされません。

現代に残るなれずし

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独特の強いアンモニア臭が特徴の「鮒寿司」は現代に残る数少ないなれずしの一つです。
また寒さの厳しい地方では「いずし」と呼ばれる、飯に麹を加えることで低温でも発酵する製法が考案されました。石川県の郷土料理「かぶらずし」もその一つです。かぶらずしは上下を切り落としたかぶに包丁で切れ込みを入れて、塩漬けにしたブリの切り身を挟み、樽で米麹と一緒に1週間から1ヶ月ほど漬け込んで作ります。
このかぶらずしには1gあたり1000万~1億個もの乳酸菌が含まれていることが分かっています。

なれずしの変遷

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このようななれずしは鎌倉時代までは主流でしたが、室町時代に入ると発酵期間が数日に縮まります。すし桶に魚と飯を交互に漬けて蓋をして重しをして作る「生なれずし」の登場です。
飯に酸味が伝わるか伝わらないかのタイミングで食べるため、魚はまだ生臭いものの飯も一緒に味わうことができます。そのため生なれずしは人気となり全国各地に広まりました。これが押しずしや箱ずしの原型です。

そして江戸時代に早ずしが登場すると、なれずしは和食の表舞台から姿を消していきます。なれずしは長期間発酵させるため作るのに手間と時間がかかります。
また強い臭いと酸味は好き嫌いが分かれます。しかし、乳酸菌を豊富に含む体に良い食べ物ですからぜひ一度は召し上がってみてください。

食生活の欧米化が和食離れを引き起こしている

日本人の食生活はこの50年あまりで激変しました。1960年代に入ると洋食が頻繁に食卓に上るようになります。これがいわゆる食生活の欧米化です。
誤解してはいけないのはここで言う食生活の欧米化とは、アメリカや西ヨーロッパに見られる動物性脂肪を多く摂る食事のことです。

日本人の間でパンやパスタ、シチューやハンバーグといったアメリカや西ヨーロッパの洋食が身近になったのは、経済成長によって豊かになったことによる恩恵です。
一方で日本人が昔から食べてきた味噌汁、煮物、和え物、漬物といったメニューが食卓に上る頻度と品数は減り続けています。

それによっていま深刻化しているのが、日本人の多くに見られる腸内環境の悪化です。肉類に含まれるたんぱく質や脂質は悪玉菌の大好物です。肉食に偏った食生活を続けていると腸内の悪玉菌が増殖して善玉菌の働きが弱くなり、それによって腸の機能が低下してしまいます。
実際に1960年代には少なかった大腸がんの患者数が右肩上がりに増加し、50年前はほとんど見られなかった潰瘍性大腸炎やクローン病が若い人の間で増えています。

和食を見直そう

いま日本では和食を見直そうという機運が高まっています。味噌や醤油、漬物類といった発酵食品には植物性乳酸菌をはじめ、麹菌や酵母菌といった豊富な善玉菌が含まれています。

日本人の体に合うのは和食

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発酵食品はファストフードやファミリーレストランではほとんど登場することがありません。和食の原点は出汁にありますが、旨みを引き出して薄味に仕上げた日本の伝統的なメニューはどれも健康的です。

ところが現代人はすっかり濃い味付けに慣れてしまい、和食を「味が薄くて物足りない」と感じる人もいます。しかし、和食はカロリーと塩分が少なく体に優しい料理が大半です。
昔の日本人は肉や乳製品を口にする機会が現代よりもずっと少なく、野菜と穀物中心の食生活を送っていました。それでも今よりも腸内環境が良好であったと考えられています。これは和食が日本人の体に合っていることを示しています。

発酵食品を積極的に摂ろう

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肉食中心の食生活を改めて、野菜や穀物中心とした和食を摂る機会を増やすことで腸内環境を整えて、ひいては健康長寿にも繋がります。
和食を見直すと言っても何も料亭で出すような高級料理を食べなければいけないということではなく、毎日食べるメニューに発酵食品を取り入れるだけで出来ます。

朝食はパン派という人はご飯に変えて、味噌汁と漬物や納豆などを付けてみてはいかがでしょうか。夕食には味噌汁のほかに煮物も加えましょう。時間がなくて煮物は作れないという方は短時間で出来る和え物やおひたしを一品加えてみてください。
なお、一般的に売られている味噌と醤油は、製造段階で加熱処理しているため乳酸菌が死滅しています。生きた乳酸菌にこだわる方には生味噌や生醤油がおすすめです。

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