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健康長寿にも乳酸菌

乳酸菌で健康長寿

健康長寿に欠かせない腸内環境

2016年、日本人の平均寿命は女性は87.14歳、男性は80.98歳とどちらも過去最高を更新しました。日本は世界有数の長寿国です。しかし、ただ長生きすれば良いというものではなく近年は「健康寿命」という言葉が提唱されている通り、健康を維持してこそ長寿にも価値があります。

そんな健康長寿に欠かせないのが腸内環境です。腸内に住むビフィズス菌を代表とする善玉菌の数は加齢とともに減少していきます。ほかにも肉食に偏った食生活や、生活習慣の乱れ、疲労やストレスも腸内の善玉菌が減少する原因です。

腸内環境の悪化は便秘や下痢などのお腹の不調を引き起こすだけではありません。腸には体全体の約7割の免疫細胞が集まっているため、腸内環境が悪化すると免疫力が低下して病気に罹るリスクも高まります。

長寿の高齢者はビフィズス菌の数が多い

健康で長生きするためには、乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌を補給して腸内環境を整える必要があるのです。生きた乳酸菌は腸内で乳酸を作り出すことで善玉菌の活動に適した弱酸性に変える働きがあり、もともと住んでいた善玉菌の増殖を促し悪玉菌を抑制してくれます。
ビフィズス菌は乳酸に加えて酢酸も作り出します。酢酸には強い殺菌力がありますから、悪玉菌の増殖を抑制するだけではなく腸の粘膜を保護する作用もあります。

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腸内細菌研究の第一人者である東京大学名誉教授の光岡知足氏は、腸内に生息するビフィズス菌の数が長寿と関係していると考え、長寿で知られる山梨県棡原村(現在の上野原市棡原)の高齢者と東京都在住の高齢者の腸内に住むビフィズス菌数と悪玉菌であるウェルシュ菌数を調べました。
その結果、棡原村の高齢者のほうがビフィズス菌数が多く逆にウェルシュ菌数が少ないことが確認されました。

ビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌はヨーグルトやチーズなどの乳製品のほか、味噌、醤油、漬物などにも含まれていますから、毎日の食生活に取り入れることで健康長寿に繋げましょう。

ヨーグルト不老長寿説を唱えたメチニコフ

腸内細菌と老化の関係を研究

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乳酸菌と長寿の関係について最初に着目したのはロシア生まれのノーベル生理学・医学賞学者イリア・メチニコフです。1845年、ロシア南部のカルコフ(現在のウクライナ)で生まれたメチニコフは、原生生物の研究に没頭しやがて優れた研究成果によって高い評価を得ます。
1882年、コレラが流行していた南フランスを訪れて仲間とともにコレラ菌を飲みます。しかし、仲間は発病したのに対してメチニコフは発病しませんでした。このことから腸内細菌に違いがあるのではないかと考えるようになります。やがて50歳を過ぎたメチニコフは老化の研究を本格的に開始します。
そして腸内に住む腐敗菌(悪玉菌)が出す毒素が老化の原因であるという結論を導き出しました。

乳酸菌で腸の腐敗を防げることを解明

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次にメチニコフはどうしたら腸の腐敗を防げるのかを解明するために、ヨーグルトに含まれる乳酸菌に着目します。
メチニコフが旅行で訪れたブルガリア地方の長寿者が多い村では、伝統的なヨーグルトが毎日たくさん食べられていました。メチニコフは乳酸菌には腐敗菌を抑制する作用があり、ヨーグルトを食べることで長寿に繋がるという「ヨーグルト不老長寿説」を提唱します。
自らもブルガリアのヨーグルトを食事に取り入れるようになり、それに合わせて腸に有害な菌を送らないように生ものはできるだけ食べないように心がけ、この習慣を亡くなるまで続けました。

悪玉菌が動脈硬化を引き起こすことを解明

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そんなメチニコフに大きな転機が訪れます。1905年、スイスのジュネーブ大学医学部でブルガリア出身の医学部生スタメン・グリゴロフがブルガリアヨーグルトの中から3種類の乳酸菌を発見したのです。
この知らせを旧知の仲であるグリゴロフから聞いたメチニコフは、そのことがきっかけで腸内細菌をさらに調べ、インドールやフェノールといった有害な物質を作る腐敗菌が動脈硬化などを引き起こしていることを動物実験で突き止めます。

果物や野菜、乳酸菌食品が腸に良いことを解明

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また、腐敗菌はアルカリ性を好み、弱酸性の環境に弱いことも解明します。これによってヨーグルトに含まれる乳酸菌は腸内を弱酸性に保ち、腐敗菌の抑制に効果的であるのでは考えました。
その後の動物実験では、肉食に偏ると有害物質が増え、果物や野菜をたくさん食べると悪玉菌が抑えられて有害物質の量が減ること、乳酸菌を含む食べ物にも同じ効果があることを突き止めます。
これらの実験結果から、メチニコフはブルガリア桿菌と名づけられたグリゴロフが発見した乳酸菌を摂ることが長寿の秘訣であることを、1907年に「不老長寿論」で発表します。

メチニコフは乳酸菌の長寿効果に初めて気づいた科学者だった

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メチニコフが発表した「不老長寿論」はヨーグルトを世界中に普及させました。メチニコフは71歳でなくなりましたが、病床で「ブルガリアヨーグルトの素晴らしさに気づいて食べ始めたとき私は53歳だった、もっと早くから食べていればもっと長生きできたのに」という言葉を残しています。
しかし、メチニコフの死後になってブルガリアヨーグルトに含まれる乳酸菌は酸に弱いため、胃酸でその多くが死滅してしまい生きて大腸まで届かないことが判明します。

近年の研究では死んだ乳酸菌にも整腸作用があることが分かっています。メチニコフの考えが正しいことが証明されたのは100年後の現代になってからです。メチニコフは腸内細菌の重要性と乳酸菌の長寿効果に初めて気づいた科学者だったのです。

カスピ海ヨーグルトと長寿の関係

ジョージアの長寿の秘訣はヨーグルト

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黒海とカスピ海に挟まれた東ヨーロッパのコーカサス地方は、世界屈指の長寿地方として知られています。ロシア内陸部と比べて温暖な気候で四季もあるため牧畜に適したこの地方では、古くからヨーグルトなどの乳製品作りが盛んに行われてきました。
そんなコーカサス地方にある国の一つがジョージアです。この国には「センチナリアン」と呼ばれる100歳以上のお年寄りが多く暮らしています。
ジョージアの長寿の秘訣は伝統的に食べられてきた「マツォーニ」と呼ばれるヨーグルトと、脂身の少ない肉料理に野菜と果物をたくさん摂る食生活だそうです。

種菌を持ち帰った家森氏がカスピ海ヨーグルトを広める

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このことに注目した医学博士の家森幸男氏(現京都大学名誉教授)は、1986年にジョージア中北部に位置する南オセチア州の村を訪れ、独特の粘り気を持ち常温でも発酵するヨーグルトと出会います。
その村では毎日ドンブリ一杯もの自家製ヨーグルトが食べられていたのです。家森氏は研究用にヨーグルトの種菌を持ち帰りました。
独特のとろみと風味、酸味がほとんどないマイルドな味わいが特徴のこのヨーグルトは「カスピ海ヨーグルト」として日本でも人気となり、やがて「カスピ海ヨーグルトブーム」が起こります。

家森氏と共同でジョージアの食生活とヨーグルトの研究を行っているシモン・ダラキシビリ博士は、「1970年後半以降、長寿をもたらす可能性があるヨーグルトの種菌を探す研究者たちが、ジョージアのヨーグルトの価値に気づいた」と言います。シモン氏はさらに「ジョージア人は、離乳期を過ぎた幼少期からヨーグルトになじんでいる」と付け加えました。

カスピ海ヨーグルトに含まれるクレモリス菌の特徴

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カスピ海ヨーグルトの粘り気を生み出しているのはクレモリス菌という乳酸菌です。この粘り気はEPSと呼ばれる多糖で、消化酵素で分解されることなく大腸まで届きます。これまでの研究でEPSには免疫力を向上させ、肌機能の低下を防ぐ効果があることが分かっています。また難消化性のため食物繊維のように働くと言われています。

乳酸菌は健康寿命を延ばす

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2012年には「カスピ海ヨーグルト研究会」が発足し、これまでにさまざまな研究が行われ多くの健康効果を発見しています。さらに研究は進められ、コーカサス地方の長寿とヨーグルトの関係性についても少しずつ明らかになっています。
家森氏は「和食には塩分の摂りすぎとカルシウム不足という弱点がある。健康寿命延長に寄与するのは乳酸菌を含む発酵乳」と言います。

京都のすぐき漬けは長寿の源

京都男性の長寿の秘訣はすぐき漬け

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日本の乳酸発酵食品にも長寿の秘密があるのではと着目した研究者がいました。ルイ・パストゥール医学研究センターの所長を務めていた岸田綱太郎博士です。
1993年、岸田博士は京都の伝統的な漬物である「すぐき漬け」からラブレ菌を発見します。

そのきっかけとなったのは、ある日たまたま目にした「京都の男性は全国で二番目に長寿」という新聞記事でした。
実は京都は岸田博士の出身地だったのです。日本で二番目に長寿を誇る都道府県が京都だという意外な事実に驚いた岸田博士はある仮説を立てました。
それは「京都の人が頻繁に口にする食品に長寿の秘密があるに違いない」というもの。それからというもの京都で食べられている伝統的な食品を手当たり次第に調べていきます。
そうして辿りついたのが、乳酸発酵させて作る京都伝統の漬物「すぐき漬け」だったのです。

すぐき漬けに含まれるラブレ菌の働き

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カブの一種である酢茎菜という野菜を塩漬けにして作られるすぐき漬けは独特の強い酸味が特徴です。そこから塩分濃度が高い環境でも生きることができる新しい乳酸菌を発見し「ラブレ菌」と命名しました。
植物性乳酸菌であるラブレ菌は、塩分だけでなく酸に強い性質を持ち、胃酸や胆汁酸に負けることなく生きて腸まで届くプロバイオティクスの乳酸菌で、腸内に長く留まることができその生残率はトップクラスを誇っています。

全国有数の長寿県長野で食べられてきた漬物

減塩キャンペーンと野菜摂取量増加が実を結ぶ

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長野県は全国一二を争う長寿県です。厚生労働省が2015年に発表した都道府県別の平均寿命を見ると男性は2位、女性は1位でした。

しかし、今でこそ長寿県として知られるようになった長野県ですが、昭和の時代は脳卒中の死亡率が全国1位という時期もありました。
そんな県がどうやって全国有数の長寿県となったのか、そこには県を上げて塩分摂取量を減らし、野菜の摂取量を増やす取り組みがあったのです。

健康で長生きするためにはバランスの良い食生活が大切です。長野県では「県民減塩キャンペーン」を行うとともに、各自治体に「食生活改善推進員」というボランティアを置いて、一般家庭にバランスの良い健康的な食生活を広める活動を行っています。
そうした地道な活動の成果が実を結び、県民の野菜摂取量日本一を達成しました。1日あたりの野菜摂取量の全国平均は280gですが長野県では365gも食べています。

植物性乳酸菌が豊富な野沢菜漬け

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そんな長野県で採れた野菜で作られる漬物と言えば「野沢菜漬け」です。カブの一種である野沢菜を乳酸発酵させて作られるこの漬物は、植物性乳酸菌が豊富に生息しています。
寒冷な環境で作られるためゆっくりと発酵し、臭いと酸味が少なめであっさりした味わいが特徴です。地元ではお茶受けとして親しまれ、野沢菜の生産地である野沢温泉村では毎日の食事だけでなく、10時と3時のお茶の時間に食べられているのだとか。
全国的に流通している野沢菜漬けの大半は浅漬けタイプで、乳酸発酵させた本場の野沢菜漬けを食べるためには地元を訪れる必要がありますが、乳酸菌をたっぷり含んだ野沢菜漬けに日本有数の長寿県になった秘密が隠れているのかもしれません。

塩を使わない漬物「すんき漬け」

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ほかにも木曽地方では「すんき漬け」と呼ばれる塩を一切使わずに乳酸発酵させて作る伝統的な漬物が食べられています。すんきとは赤カブの葉のことで、前年に作ったすんき漬けを種にして発酵させています。
塩を一切使わない漬物は日本だけでなく世界的にも珍しく、中国の白菜漬けとネパールのカラシ菜漬しか確認されていないそうです。すんきの発酵には20種類以上もの多種多様な乳酸菌が関与していることが分かっています。

老化を抑制する乳酸菌H61株

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H61株は正式名称ラクトコッカス・ラクティス亜種・クレモリス・H61株、国立研究開発法人「農業・食品産業技術総合研究機構」が開発した乳酸菌です。
もともとはチーズ製造用の種菌でしたが、抗酸化作用や免疫活性化作用があることから、老化抑制作用があるのではないかと研究が開始されました。

老化マウスを使った実験では、H61株を与えたマウスは老化による骨密度の減少や潰瘍の発生が抑制されることが確認されています。
さらに50~60代の女性39人を対象に行った試験では、皮膚に対する効果を調べたところ、年齢によって失われる肌の保湿を回復させることが分かりました。

これらの老化抑制作用は生菌だけでなく加熱処理した死菌でも認められています。
人に対する効果の検証はまだまだこれからで今後の研究の進展が待たれます。
もし人に対しても同じような老化抑制効果があることが認められれば、H61株を摂ることで健康長寿が得られるかもしれません。

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