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加齢による腸内細菌の変動

腸内細菌の数は一定ではない

腸内細菌の数は年齢によって大きく変わる

私たちの腸内には500種類以上、数にして100兆~1000兆個もの腸内細菌が生息していて、種類ごとにまとまり腸内フローラを形成しています。
腸内細菌は体にとって有用な乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌、体に害を及ぼす大腸菌(有毒株)やウェルシュ菌などの悪玉菌、そのどちらにも属さない日和見菌に分けることができます。
このような腸内細菌ですが、これまでの研究では、その数は常に一定ではなく、ライフステージによって大きく変化することが分かっています。
1970年代、東京大学の光岡知足名誉教授は、培養法を用いて腸内細菌数の変化を調べ、人は歳を重ねることで腸内細菌のバランスが劇的に変わることを発表しました。
なお、腸内細菌数の変化を調べると言っても、生きている人間の腸内を直接見ることはできません。そのため腸内細菌の数を調べる場合は便を採取して、その中に含まれている細菌の数から腸内で生息している細菌数を割り出しています。

健常者367名を対象に行った研究結果でも証明されている

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その後、技術は飛躍的に進歩を遂げ、それぞれの年代ごとに腸内細菌のバランスがどのように変化するのか解明が進んでいます。
森永乳業と神戸大学の大澤朗教授が2015年に発表した共同研究では、0~104歳までの健常者367名を対象に腸内フローラを解析し、腸内に生息する細菌の数を比較しました。
この研究結果でも、1970年代に光岡氏が発表した通り、歳を重ねることで腸内細菌の数が大きく変化することが確認されています。

胎児から成年期を経て老年期までの腸内細菌の変動

出産によって住み着きはじめる腸内細菌

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私たちの腸内は母親のお腹の中に居る胎児の状態では無菌状態です。
ではいつ腸内に細菌が住みつき始めるのでしょうか? 実は、出産のときに産道を通ることで、母親が持つ腸内細菌が口から入り込みます。
つまり私たちは母親の腸内フローラを受け継いでいるのです。このため、早く腸内フローラを形成するためには、帝王切開ではなく、産道を通って生まれてくる自然分娩を推奨する意見もあります。
ほかにも、空気中を漂っている菌や周囲の人が持つ菌などさまざまな菌を取り込むことで、初期の腸内フローラが作られていきます。出産した直後の腸内でまず住み着き始めるのは、悪玉菌である大腸菌や日和見菌である腸球菌です。
これは生後間もない赤ちゃんの腸内は酸素濃度が高いために、酸素のある環境を好むこれらの菌が活動しやすいためです。
光岡氏が出生3~4時間後の糞便を調べたところ、既にストレプトコッカス属の乳酸菌、酵母、大腸菌、クロストリジウム属などが住み着いていることが確認されています。このうちクロストリジウム属は、腸内で腐敗物質を作り出す悪玉菌です。
そして出生1日目の糞便からは、ストレプトコッカス属とラクトバチルス属の乳酸菌、大腸菌、クロストリジウム属、ブドウ球菌が発見され、菌の総量は1000億個にも達することが分かっています。

離乳するまでの腸内細菌の変動

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しかし、乳児の腸内に大腸菌など体に害を及ぼすリスクのある菌だけが生息している状態では、早期に病気に感染してしまいます。それを防ぐために生後3日目までにビフィズス菌が優勢になります。
授乳が始まるとビフィズス菌の数は一気に増加し、1週間ほどで全体の95%を占めるようになります。糞便1gあたりに含まれるビフィズス菌の数は100億~1000億個にも達します。
これは母乳に含まれる乳糖とオリゴ糖をエサにして、腸内のビフィズス菌が増殖するためです。このようなことから乳児の腸内で早期にビフィズス菌を優勢にするためには、粉ミルクなど人工乳による育児ではなく、母乳育児が良いという意見が今日では増加傾向にあります。
また、近年の研究では、母乳から乳児が摂るヒトミルクオリゴ糖には、ビフィズス菌を増やす因子「ラクトNビオース」が豊富に含まれていることが分かっています。
一方、乳児の腸内でビフィズス菌が優勢になることで、大腸菌やブドウ球菌はビフィズス菌の1/100程度まで減少し、腸内フローラのバランスが保たれます。

離乳してから成年期までの腸内細菌の変動

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授乳中は腸内細菌のほとんどを占めていたビフィズス菌ですが、離乳がはじまると母乳から得られるオリゴ糖がなくなることでその数は減少に転じます。
前出の大澤教授らが発表した研究結果でも、離乳まで最も優勢であったビフィズス菌が、離乳後にはその割合が急激に減少することが確認されています。

1~2歳になると腸内フローラに再び大きな変動が発生し、3歳頃までに日和見菌であるバクテロイデスやフィルミクテス門が優勢になります。一方、ビフィズス菌の数は2割前後まで低下し、食事などの影響を受けて成人の腸内フローラへと移行していきます。
それによって私たちの腸内細菌の数は安定状態に入り、適切な腸内フローラが形成されることで免疫系が発達していきます。また、離乳から成年期にかけては、ウェルシュ菌などの悪玉菌が比較的少ない傾向にあるのも特徴です。
37人の成人を対象に腸内フローラを5年間解析した研究では、60~70%の腸内細菌が研究期間を通して維持されており、安定状態にあることが報告されています。
成人の糞便1gあたりにはビフィズス菌が100億個前後、ストレプトコッカス属とラクトバチルス属を合わせた乳酸菌が100万個前後含まれています。腸内の善玉菌の95%以上をビフィズス菌が占めていることになります。

成年期を過ぎて老年期に入ると腸内細菌が大きく変動する

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成年期を過ぎて老年期に入る頃になると、腸内のビフィズス菌が大きく減少し、代わってウェルシュ菌や大腸菌(有毒株)などの悪玉菌が増え始めます。
これは加齢によって胃酸の働きが低下することで、腸の機能が衰えて食べ物が大腸に長く留まるようになり、悪玉菌が増殖しやすい環境が作られるためと言われています。
また、善玉菌である乳酸菌も増え始めますが、もともと生息している菌の数が少ないため腸内フローラに与える影響は限定的です。
前出の大澤教授らが発表した研究結果でも、60代以降のビフィズス菌の減少と大腸菌などのプロテオバクテリア門の細菌の増加が顕著であることが分かります。
糞便1gあたりに含まれるビフィズス菌の数を見ても、老年期になると1億~数億個程度まで減少してしまいます。これは成年期の1/10以下であり、腸内の善玉菌が弱くなり悪玉菌の増殖を引き起こしていることを示しています。
また老年期の腸内フローラは成人と比較して個人差が大きく、多様性と安定性が低下しているのも特徴です。

老年期に入って腸内フローラが再び大きく変動する要因としては、加齢や食生活の変化、生活環境を原因としたストレス、抗生剤などの薬剤の投与が挙げられます。
また、高齢者になると歯が弱くなることで噛む力の低下、味覚と嗅覚の低下、消化機能の低下によって、食生活に変化が起こり、低栄養状態になりやすいことも要因の一つです。
さらに、入院やケア施設への入所によって食事量が変化することもあります。
このような様々な要因によって、腸内フローラのバランスと栄養素の代謝に関する遺伝子が減少することが報告されています。これは加齢による腸内フローラの変化が、代謝能力の低下に繋がることを示しています。

成年期のビフィズス菌数を維持するためには食生活の工夫が必要

最近の研究では、加齢による腸内フローラの変化は、食事によって大腸に届く栄養成分の影響であることが分かっています。
そこで必要なのが食事の工夫です。成年期のビフィズス菌数を出来るだけ維持し、悪玉菌の増殖を抑制することで、腸内フローラを良好に保つことができます。
私たちが摂った食べ物はまず胃でおおまかに消化されて、小腸に送られて消化酵素によって分解されて吸収され、残った老廃物と水分は大腸に送られて便が形成されます。
このときに、小腸で分解、吸収しきれなかったたんぱく質や脂質が大腸にそのまま運ばれてしまうと、悪玉菌のエサとなり増殖を促してしまいます。
年齢を重ねると胃腸の消化吸収機能が弱くなりがちです。胃腸に負担をかけるような肉食中心の食生活を改める必要があります。
食べ過ぎにも注意が必要です。1日の消費する以上のカロリーを食事から摂っていると、代謝によって使われなかった余分なたんぱく質や脂質が大腸に送られてしまいます。

一方、野菜に多く含まれる食物繊維と果物に多く含まれるオリゴ糖は善玉菌のエサになります。野菜と果物をたくさん摂ることで腸内の善玉菌を活性化しましょう。

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